雇入企業の規模と経営状態
目次
【就労ビザ審査の重要ポイント】なぜ「雇入企業の規模と経営状態」が厳しくチェックされるのか?
アイ・ビー飛鳥行政書士法人です。
グローバル化が進む現代において、外国人材の採用は多くの企業にとって重要な経営戦略の一つです。しかし、素晴らしいスキルを持つ人材を見つけ、内定を出したにもかかわらず、「就労ビザが不許可になった」というご相談は後を絶ちません。その原因の多くは、申請者本人ではなく「雇い入れる企業側」にあります。
出入国在留管理局(以下、入管)の審査では、申請者個人の学歴や職歴だけでなく、受け入れ先となる企業の事業規模や経営の安定性が極めて厳しく審査されます。なぜなら、外国人が日本で安定した生活を送るための基盤は、所属する企業の健全性にある、と入管は考えているからです。
この記事では、ビザ専門の行政書士として、就労ビザ申請の成否を分ける「企業の安定性・継続性」というテーマに焦点を当てます。入管が具体的にどこを見ているのか、そして企業のカテゴリー(大企業、中小企業、新設法人、赤字企業など)ごとに、どのような対策を講じるべきかを徹底的に解説します。
就労ビザ審査の3つの柱と「相当性」の審査
まず、就労ビザの審査がどのような視点で行われるかを理解することが重要です。審査には大きく分けて3つの柱があります。
- 在留資格該当性: 従事する予定の仕事内容が、申請する在留資格の活動範囲に合致しているか。(例:エンジニアが「技術・人文知識・国際業務」を申請する)
- 上陸許可基準適合性: 申請者本人が、学歴や実務経験など、法律で定められた基準を満たしているか。(例:「技術・人文知識・国際業務」であれば大学卒業、または10年以上の実務経験など)
- 相当性: 上記1と2を満たしていてもなお、「その外国人を日本に在留させることが適当か」を総合的に判断する視点です。
今回解説する「雇入企業の規模と経営状態」は、この3つ目の「相当性」の判断において、極めて重要な要素となります。
入管が企業の審査で特に重視するのが「事業の安定性」と「事業の継続性」という2つの観点です。これは、採用した外国人に約束通りの給与を支払い続け、倒産などで路頭に迷わせることなく、安定的に雇用し続けられるか、という点を確認するためです。
入管が企業の「安定性・継続性」を判断する具体的ポイント
では、入管は具体的にどのような書類から企業の健全性を判断しているのでしょうか。主に以下の4点が総合的に評価されます。
決算書類で見る経営の健全性
企業の経営状態を客観的に示す最も重要な資料が、直近の「決算報告書(貸借対照表、損益計算書など)」です。
- 売上と利益: 売上高が安定しているか、利益(経常利益、当期純利益)が出ているかは、事業の安定性を示す直接的な指標です。
- 債務超過の有無: 貸借対照表の「純資産の部」がマイナス(債務超過)になっている場合、審査は著しく厳しくなります。これは、会社の資産をすべて売却しても負債を返済できない状態を意味し、倒産の危険性が高いと判断されるためです。
- 事業内容との整合性: 決算書の内容と、会社案内やホームページで謳っている事業内容が一致しているかも確認されます。
納税状況という社会的な信頼性
企業の社会的な責任を示す指標として、「納税証明書」や「法定調書合計表」も厳しくチェックされます。税金の滞納は、資金繰りの悪化を示唆するだけでなく、法令遵守の精神が欠如していると見なされるため、ビザ審査においては致命的なマイナスポイントとなります。特に、法人税だけでなく、源泉所得税や法人事業税、消費税など、各種税金の納付状況が確認されます。
雇用契約書から見る雇用の真正性
外国人本人と結んだ「雇用契約書(または労働条件通知書)」も、企業の安定性を間接的に示す資料となります。
- 給与額の相当性: 給与が、同じ業務に従事する日本人従業員と同等か、それ以上であることが求められます。不当に低い給与は、企業の経営体力の欠如を疑われるだけでなく、外国人を安価な労働力として搾取する意図がないかと見なされる原因になります。
- 雇用の安定性: 契約形態が正社員(無期雇用)であることが最も望ましいですが、契約社員(有期雇用)であっても、契約の更新が前提とされており、事業の継続性が見込まれれば許可の可能性はあります。
事業内容を明らかにする補足資料
上記の公的書類に加え、会社案内パンフレットやウェブサイトの写し、取引先との契約書なども、事業の実態を証明する上で有効な資料となります。これらの資料から、どのような事業を、どのくらいの規模で行っているのかを具体的に示します。
【企業カテゴリー別】審査のポイントと対策
企業の状況は千差万別です。ここでは、企業のカテゴリーごとに入管の審査の視点と、申請にあたっての対策を解説します。
カテゴリー1:大企業・上場企業
四季報に掲載されている企業や上場企業など、社会的信用度が高く、安定性が客観的に明らかな企業は、審査における書類提出が大幅に簡素化されます。決算書の提出が免除され、四季報のコピーや登記事項証明書などで申請が可能な場合が多いです。入管も、これらの企業の安定性・継続性について特段の疑いを抱くことは稀で、審査は比較的スムーズに進みます。
カテゴリー2:中小企業(黒字経営)
日本企業の大多数を占めるのがこのカテゴリーです。黒字経営で、きちんと納税していれば、安定性・継続性の証明はさほど難しくありません。
- 提出書類: 直近年度の決算報告書の写し、前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表などが必須となります。
- 対策: 書類を不備なく揃えることが基本です。特に「法定調書合計表」は、受付印のある控えの提出が求められます。電子申告の場合は「受信通知」を添付する必要がありますので、紛失しないよう注意しましょう。安定した経営状況を客観的な数字で示すことができれば、許可を得ることは十分に可能です。
カテゴリー3:新設法人・スタートアップ企業
設立して最初の決算期を迎えていない新設法人は、過去の実績を示す決算書を提出できません。そのため、審査は最も厳しくなります。過去ではなく**「未来の可能性」**を証明する必要があります。
- 重要書類: 「事業計画書」が申請の成否を分ける最も重要な書類となります。
- 事業計画書のポイント:
- 事業の具体性: 誰に、何を、どのように提供するのかを具体的に記述します。
- 収支計画の妥当性: 今後1年〜3年の詳細な収支計画を立て、売上の見込みや経費の根拠を明確に示します。
- 雇用の必要性: なぜこのタイミングで、この外国人を採用する必要があるのかを、事業計画と関連付けて具体的に説明します。
- 資金計画: 資本金の形成過程(出資者の通帳コピーなど)や、運転資金が十分に確保されていることを証明します。
- 対策: 「この事業は将来的に成長し、この外国人を安定して雇用し続けられる」という強い説得力を持った事業計画書を作成することが不可欠です。事務所の賃貸借契約書や、許認可が必要な事業であれば許可証の写しなど、事業の基盤が確かに存在することを示す書類も重要となります。
カテゴリー4:赤字経営・債務超過の企業
決算が赤字、あるいは債務超過である場合、原則として「安定性・継続性に欠ける」と判断されるため、非常に厳しい審査となります。しかし、赤字だからといって、直ちに不許可となるわけではありません。
- 重要書類: 赤字の理由と今後の経営改善策を具体的に説明する**「理由書」**の提出が必須です。
- 理由書のポイント:
- 赤字の合理的説明: 赤字が一時的なものか、構造的なものかを明確にします。例えば、「先行投資(設備投資や研究開発費)による戦略的な赤字」「新型コロナウイルスの影響など一過性の外部要因によるもの」といった合理的な理由を説明します。
- 具体的な経営改善計画: 今後、どのように黒字転換を目指すのかを具体的に記述します。新規顧客の獲得計画、新サービスの開発、コスト削減策などを盛り込み、その計画に説得力を持たせます。
- 雇用の必要性と将来性: 経営改善計画の中で、採用する外国人がどのような役割を果たし、企業の成長(黒字化)にどう貢献するのかを強くアピールします。「この人材の獲得こそが、赤字脱却の鍵である」と示すことが重要です。
- 対策: 単に「頑張ります」といった精神論ではなく、客観的なデータや具体的な計画に基づいた説得力のある説明が求められます。直近の業績が回復傾向にあることを示す試算表などを添付することも有効です。
まとめ – 企業の信頼性が外国籍人材の未来を支える
本記事では、就労ビザ審査における「企業の安定性・継続性」の重要性について、具体的な審査ポイントから企業カテゴリー別の対策までを詳細に解説しました。
就労ビザの申請は、外国人個人の能力を証明するだけでなく、「受け入れ企業が、その外国人の日本での生活を支えるに足る存在であるか」を証明する手続きでもあります。特に、経営状況が万全でない企業様にとっては、自社の事業の将来性や、外国人材の必要性を入管に理解してもらうための、丁寧で戦略的な資料作成が不可欠です。
初めて外国人を採用する企業様や、自社の経営状況に不安があり申請を躊躇している企業様は、自己判断で申請を進めて不許可のリスクを冒す前に、ぜひ一度、私たちのようなビザ専門の行政書士にご相談ください。
当事務所のサポート
当事務所では、就労ビザに関する豊富な経験と専門知識を持つ行政書士が、お客様の状況に合わせて丁寧にサポートいたします。
- 就労ビザ取得の可能性診断
- 企業の状況に応じた必要書類の具体的なアドバイス
- 説得力のある事業計画書や理由書の作成サポート
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お客様の企業状況を丁寧にヒアリングし、外国人材の雇用という大きな経営判断が成功裏に終わるよう、ビザ取得の可能性を最大限に高めるためのサポートをいたします。就労ビザに関する不安を抱えている方は、お気軽にご相談ください。
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