【就労ビザ】の学歴と業務内容の関連性
目次
はじめに
アイ・ビー飛鳥行政書士法人です。
外国人材の採用を検討する中で、最も多く利用される就労ビザが「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国)です。しかし、この在留資格の申請で最もつまずきやすく、不許可の最大の原因となるのが「学歴と業務内容の関連性」という要件です。
「大学さえ出ていれば、どんな仕事でも大丈夫だろう」
「専門学校で学んだ知識を、少しでも活かせれば問題ないはずだ」
「熱意やポテンシャルをアピールすれば、学歴との関連性が多少弱くても許可されるのではないか」
こうした期待や思い込みが、残念ながら不許可という結果に繋がるケースは後を絶ちません。技人国ビザの審査は、採用したい企業の熱意や、外国人材の優秀さだけで判断されるわけではなく、法律で定められた要件に合致しているかどうかが極めて厳格に審査されます。
この記事では、日々多くの就労ビザ申請を手がける専門家の視点から、技人国ビザの根幹をなす「学歴要件」と「業務内容との関連性」について、その詳細なルールから、学歴による審査の厳格度の違い、許可と不許可を分ける具体的な事例まで、網羅的に掘り下げて解説します。
この記事を最後までお読みいただければ、採用したい人材が技人国ビザを取得できるかの判断精度が格段に上がり、不許可リスクを最小限に抑えるための具体的な知識が身につきます。
就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」の基本
まず、この複雑な在留資格を理解するための基礎から整理しましょう。
どんな在留資格か?
「技術・人文知識・国際業務」は、いわゆるホワイトカラー職に従事する外国人材のための在留資格です。大学や専門学校で修得した専門的な知識や技術、あるいは母国の文化に根差した思考や感受性を活かして、日本の企業等で活躍することを目的としています。
単純労働ではなく、専門性が求められる業務に従事することが大前提であり、そのため申請者の「学歴」や「職歴」が極めて重要な審査項目となります。
3つのカテゴリー「技術」「人文知識」「国際業務」とは?
この在留資格は、その名の通り3つの業務カテゴリーに大別されます。
- 技術 (理系分野)
- 概要: 理学、工学、その他の自然科学の分野に属する技術または知識を必要とする業務。
- 具体例: システムエンジニア、プログラマー、機械設計者、建築士、研究開発職など。
- 人文知識 (文系分野)
- 概要: 法律学、経済学、社会学、その他の人文科学の分野に属する知識を必要とする業務。
- 具体例: 企画、営業、マーケティング、経理、人事、法務、コンサルタントなど。
- 国際業務 (外国の文化・感性)
- 概要: 外国の文化に基盤を有する思考または感受性を必要とする業務。
- 具体例: 翻訳、通訳、語学教師、海外取引業務、広報・宣伝、外国人向けの商品開発、デザイナーなど。
採用したい人材の職務内容が、これらのいずれかのカテゴリーに該当し、かつ後述する学歴や職歴の要件を満たす必要があります。
なぜ「学歴」と「業務内容」の関連性が最重要なのか?
出入国在留管理庁(入管)がこの関連性を厳しく審査する理由は、「専門性なき外国人労働者の流入を防ぎ、在留資格制度の根幹を維持するため」です。
もし学歴と無関係な業務が簡単に許可されてしまえば、専門知識が不要な「単純労働」との境界が曖昧になります。技人国ビザは、あくまで「学術的な素養を背景に持つ人材が、その専門性を日本社会で発揮すること」を想定した制度です。そのため、申請者が大学等で何を学び、その知識が就職先でどのように活かされるのかを、客観的な書類で合理的に説明することが絶対的な条件となるのです。
学歴要件の全パターンを徹底解説
技人国ビザを申請するための「学歴」には、いくつかのパターンが存在します。自社の候補者がどのパターンに該当するかを正確に把握することが第一歩です。
基本要件:大学卒業 (学士号の取得)
最もスタンダードで、審査においても基本となるのが**「大学の卒業」**です。これには日本の大学だけでなく、海外の大学や短期大学も含まれます。
- 学士 (Bachelor): 4年制大学を卒業すると授与される学位です。これが最も一般的な学歴要件となります。
- 短期大学士: 日本の短期大学を卒業すると授与される学位です。これも学歴要件として認められます。
出身国を問わず、大学(またはそれに準ずる高等教育機関)を卒業し、「学士」または「短期大学士」の学位を取得していることが証明できれば、学歴要件の第一関門はクリアです。
大学院卒業 (修士・博士)
大学院を修了し、「修士(Master)」や「博士(Doctor)」の学位を持つ人材は、より高度な専門性を有していると評価されます。
- 修士 (Master): 大学院の修士課程(博士前期課程)を2年間修了することで得られます。
- 博士 (Doctor): 大学院の博士課程(博士後期課程)を3年以上履修し、博士論文の審査に合格することで得られます。
これらの学位を持つ人材は、研究開発職や高度なコンサルティング業務など、特に専門性が高い職種において、学歴と業務内容の関連性を証明しやすく、審査上有利に働くことがあります。
日本の専門学校卒業 (「専門士」または「高度専門士」)
日本の専門学校を卒業した場合、「専門士」または「高度専門士」の称号を授与されていることが絶対条件です。
- 専門士: 修業年限が2年以上、総授業時間数が1,700時間以上の要件を満たす専門学校の課程を修了した者に与えられます。
- 高度専門士: 修業年限が4年以上、総授業時間数が3,400時間以上の要件を満たす課程を修了した者に与えられます。「学士」とほぼ同等の扱いを受けることが多く、有利な条件となります。
注意点として、単に専門学校を卒業しただけでは要件を満たしません。 卒業証書に「専門士」または「高度専門士」の称号が記載されているかを必ず確認してください。
【重要】海外の専門学校は学歴要件として認められない
これは非常に重要なポイントです。海外の専門学校を卒業していても、技人国ビザの「学歴要件」としては原則として認められません。 日本の「専門士」制度に相当する国際的な枠組みがないためです。
候補者が「母国でITの専門学校を出た」と話していても、それが大学でなければ学歴要件は満たせないため、後述する「実務経験」での申請を検討する必要があります。
【最新情報】2024年ルール改正:認定専修学校専門課程修了者の扱い
2024年2月、専門学校卒業者の扱いについて重要な変更がありました。文部科学大臣が認定した質の高い教育を行う専門学校(「認定専修学校専門課程」)を修了した者については、大学卒業者と同様に、専攻科目と業務内容の関連性が柔軟に判断されることになりました。
これは、質の高い専門教育を受けた人材の活躍の場を広げるための緩和措置です。自社の候補者がこの認定課程の卒業生であれば、より幅広い職種への挑戦が可能になる可能性があります。
最も重要な「業務内容との関連性」の審査基準
学歴要件をクリアしても、次に「業務内容との関連性」という最大のハードルが待ち構えています。この審査は、卒業した学校の種類によって厳格さが大きく異なります。
【大学卒業者の場合】 比較的 “緩やか” に判断される
大学は、専門知識だけでなく、幅広い教養や論理的思考力を養う場とされています。そのため、大学卒業者の場合、専攻科目と業務内容が完全に一致していなくても、合理的な関連性を説明できれば許可される可能性が高いです。
- 審査のポイント:
- 専攻分野で得た基礎知識や思考法が、どのように業務に活かされるかを説明できるか。
- 例えば、「経済学部で学んだデータ分析の手法を、マーケティング業務に活かす」「文学部で培った異文化理解力や文章構成能力を、海外営業や広報業務に活かす」といった説明が求められます。
- 注意点:
- 「緩やか」といっても、全く無関係では許可されません。例えば、理系の工学部を卒業した者が、専門知識を全く必要としない人事・総務の業務に就く場合などは、関連性の説明が非常に困難になります。
【専門学校卒業者の場合】 厳格に判断される
専門学校は、特定の職業に直結する専門的な知識・技術を修得する教育機関です。そのため、卒業者の場合は、専攻内容と業務内容の関連性が極めて厳格に審査されます。
- 審査のポイント:
- 専門学校で履修した科目と、従事する業務内容が直接的に結びついている必要があります。
- 例えば、「情報処理科を卒業してプログラマーになる」「国際観光科を卒業してホテルのフロントで通訳業務を担う」といった、明確な関連性が不可欠です。
- 申請の際には、成績証明書だけでなく、各科目の授業内容が詳細に書かれた「シラバス」などを提出し、どの科目が業務のどの部分に関連するのかを具体的に立証することが有効です。
- 不許可になりやすい例:
- 「国際ビジネス科で英語を学んだ」という理由だけで、不動産の営業職に就こうとするケース。不動産取引の専門知識を学んでいないため、関連性がないと判断されやすいです。
「国際業務」における関連性の特別ルール
翻訳、通訳、語学指導といった「国際業務」の一部については、学歴との関連性について特別なルールがあります。
- 翻訳・通訳・語学指導の場合:
- 大学を卒業していれば、専攻分野(文系・理系)は問われません。 これが最大の特例です。大学で得た基礎学力があれば、これらの業務は可能と判断されます。
- ただし、日本の専門学校卒業の場合は、やはり「翻訳・通訳コース」などを専攻している必要があります。
- 上記以外の国際業務(海外取引、デザイナーなど)の場合:
- こちらは学歴との関連性が必要です。例えば、デザイナーであれば、大学や専門学校でデザインを専攻していることが求められます。
学歴要件を満たさない場合の代替ルート:実務経験
大学や日本の専門学校を卒業していない場合でも、諦める必要はありません。「実務経験」によって要件を満たす道が残されています。
「技術」「人文知識」分野:10年以上の実務経験
従事しようとする業務について、10年以上の実務経験があれば、学歴要件の代わりとすることができます。
- ポイント: この10年には、大学、高校、専門学校などで関連科目を専攻した期間を含めることができます。
- 証明方法: 過去に在籍した全ての企業から、具体的な業務内容と在籍期間が記載された「在職証明書」を取り寄せる必要があります。証明は非常に厳格で、1日でも期間が足りなければ不許可となります。
「国際業務」分野:3年以上の実務経験
翻訳・通訳以外の「国際業務」(海外取引、広報、デザイナーなど)に従事する場合、3年以上の実務経験があれば申請が可能です。
- 注意点: 翻訳・通訳についてはこの実務経験ルールは適用されず、原則として大学卒業が必要です。
- 証明方法: 10年の場合と同様に、客観的な書類による厳密な証明が求められます。
実務経験による申請は、立証資料の収集が煩雑で、審査も慎重に行われるため、専門家への相談を強く推奨します。
許可と不許可を分ける具体的事例
実際の事例を見ることで、審査のポイントがより明確になります。
【許可事例】
- ケース1:携帯ショップの販売員
- 学歴: 大学の日本語学部を卒業 (JLPT N1)
- 業務内容: 在留外国人に対する通訳を交えた携帯電話の販売、契約説明、アフターサービス。
- 許可のポイント: 単なる販売員ではなく、「語学力を活かした通訳・顧客サポート」が業務の核心であると説明。店舗に外国人客が多いという客観的なデータも提出し、「国際業務」としての専門性が認められた。
- ケース2:地方旅館のフロント・企画スタッフ
- 学歴: 大学の観光学部を卒業
- 業務内容: 外国人観光客の予約対応、フロントでの通訳案内、海外の旅行代理店との企画折衝、SNSでの海外向け情報発信。
- 許可のポイント: ベッドメイキングや清掃といった単純労働ではなく、語学力と観光学の知識を活かした専門的業務(フロント、渉外、企画)に従事することを明確にした。
【不許可事例】
- ケース1:学歴と業務内容の完全な不一致
- 学歴: 教育学部を卒業
- 業務内容: 食品加工工場での弁当の箱詰め作業
- 不許可の理由: 業務が専門知識を必要としない「単純労働」である点、および学歴との関連性が全く認められない点から不許可となった。
- ケース2:専門学校での専攻と業務内容の関連性不足
- 学歴: 専門学校の国際コミュニケーション学科(主に接遇、英語、異文化理解を履修)を卒業
- 業務内容: 飲食チェーンの本部スタッフとして、店舗開発、マーケティング、フランチャイズ開発を担当。
- 不許可の理由: 業務には経営学やマーケティングの専門知識が必要であるのに対し、専門学校での履修科目は接遇や語学が中心で、関連性が乏しいと判断された。
- ケース3:給与水準の問題
- 学歴: 大学で日中通訳翻訳学を専攻
- 業務内容: 貿易会社での翻訳・通訳業務
- 不許可の理由: 申請者の月給が17万円であったのに対し、同業務に従事する新卒の日本人の月給が20万円であることが判明。「日本人と同等額以上の報酬」という要件を満たしていないため不許可となった。
まとめ – 自己判断せず、専門家への相談を
「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得において、「学歴と業務内容の関連性」がいかに重要で、かつ厳密に審査されるかをご理解いただけたかと思います。
- 大学卒業者は比較的広く関連性が認められるが、合理的な説明は不可欠。
- 日本の専門学校卒業者は、専攻内容と業務が直結している必要がある。
- 海外の専門学校は学歴要件にならず、実務経験での立証が必要。
- 学歴だけでなく、企業の安定性や日本人と同等以上の給与も必須要件。
これらの要件を一つでも満たしていない、あるいは立証できなければ、申請は不許可になってしまいます。採用活動にかけた時間とコストが無駄になるだけでなく、外国人材本人のキャリアプランにも大きな影響を与えてしまいます。
「この人材の学歴で、この業務内容は許可されるだろうか?」
少しでも疑問や不安を感じたら、申請書類を提出する前に、ぜひ一度私たちのようなビザ専門の行政書士にご相談ください。
当事務所のサポート
当事務所では、就労ビザに関する豊富な経験と専門知識を持つ行政書士が、お客様の状況に合わせて丁寧にサポートいたします。
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